あ れから五年の月日が経ちました。
君のいない生活にも慣れて、不器用ながらも僕はがんばっています。
君と話し合って名付けた僕達の息子、継一はとても元気ですよ。
君に似てしっかり者でちょっとおせっかい焼きで、僕はあいかわらず忘れものをしては怒られています。

今 日は継一といっしょに精霊馬をこし らえました。
工作の好きな継一は楽しそうにできあがったなすの牛を眺めています。
お盆のとき、亡くなった人はきゅうりの馬に乗ってやってきて、
帰りはゆっくり牛に乗って行くのだそうですね。
「おかあさん、馬に乗れるのかな?」
って心配そうな息子に、ちょっとイレギュラーなんだけど、僕はにんじんの皮で手綱をつくってつけました。
でも、運動神経のいい君のことですから、そんな心配はいらないのでしょうね。

そ うそう、君からのメールが今日届き ましたよ。
差し出しアドレスがうちだったもので、僕はさいしょ何かのメールが戻って来てしまったのかと
思いました。
今日届くように設定をして、五年前に君が出しておいたメールです。
添付されていた短い動画ファイルの中で、僕はひさしぶりに君の声を聞きました。

孝さん、お元気で すか?
ちゃんとごはんを食べていますか?
忘れものをしてはいませんか?

言 いわすれていたことがありま す。
帰って来てからの一年間、わたしはとても幸せでした。
あたりまえの日常を過ごしているとうっかり忘れてしまいそうな、あたりまえの幸せを
たくさん思い出すことができました。
…だから、由梨江ちゃんに、ありがとうを言ってください。
由梨江ちゃんのおかげで、わたしは大好きなあなたとちゃんとさよならができたの
ですから。
けいちゃんをあなたのもとへ連れてくることができたのですから。

け いちゃん、パパはのんきでわす れんぼだから、しっかりついててあげてね。
あんまりパパを困らせちゃだめだよ。

孝 さん。顔を見るとはずかしくて 言えないから、ムービーでごめんなさい。
……あいしています。
わたしはこちらでのんびりとあなたを待っています。
どうか、決して…決して急がずに来てくださいね。

継 一はうれしそうに「うん!」と返事 しながら動画に見入っています。
「ちゃんと来てくれたね、おかあさん」
「…う、うん」
僕はいそいでうしろをむいて、なすの牛を見ているふりをしました。
だけど息子にはしっかりばれてしまったようです。
ふしぎそうに訪ねる声が聞こえました。
「あれ?ねえ、どうして泣いてるの、おとうさん」

な すの牛はつやつやと光りながら、 うっすらと僕に笑いかけているようでした。

 

■Back■

inserted by FC2 system